6年前の事です。
この頃、僕は無闇にロンドンに行くのが楽しくて仕方が無かった。
別に大した用事はない。目的もない。買い物は苦手。
往復12時間チケット27ポンドかけて
ピカデリーサーカスでボ~っと人間観察したり
カムデンタウンのマーケットを散策したり
コベントガーデンの大道芸を見るのが好きだった。
たまに大英博物館にも足を運んだりもした。
宿代が勿体無いので日帰りの時もしばしばあった。
朝5時20分アバ発・朝10時半ロンドン着→
夕方6時半ロンドン発・夜11時40分アバ着。
今考えるとよくやったものだ…汗。
そんなある日のロンドン。
多分カムデンタウンからピカデリーサーカスに向かう途中だった。
レスタースクエアで降りれば良いものをまだ地理が掴めてなかった僕は
ノーザンラインからいちいちピカデリーラインに乗り換えていた。
(レスターからピカまで歩いて5分…歩いた方が早い)
ピカデリーラインのプラットホームで電車を待っていた時異変を感じた。
いつの間にか子供に周りを囲まれていたのだった。
ざっと見、年齢は5歳ぐらいから15歳ぐらい。
人数は12~3人。見た目はジプシー系。
見事なくらいな怪しさをかもちだしていた。
気付いた時にはすでに逃げ場が無かった。
集団スリ…それがまず浮かんだ。
一瞬頭の中で背中にあるバッグの中身を確認する。
僕のバッグはフック式で簡単に開く…が、
今日は日帰り予定&買い物をまだしてなかった為
バッグの中身は…いらないものが一つ。
重要な財布はズボンのポケット。
ピチっとしたコート着てる上ズボンもキツク
簡単に財布は出せない。まず気付く。
鍵とかチケットは胸ポケット。
同じくコートに阻まれ簡単に手はだせない。
ちょっと安心した。
2分ぐらいが経ち、電車が来た。
彼らも僕と一緒にピタリとくっ付いて乗った。
小さい子たちは僕の横とか後に。
14・5歳の子達は僕の前に立った。
ニヤニヤ…ニヤニヤ…ニヤニヤ…
僕を囲む異様な集団はずっと僕をニヤケながら見つめていた。
背が低く、(たまたま)小奇麗な格好している僕の事を
良いカモ見つけたと思ってんだろなぁ、っと思った。
ちょっとそう思うと腹が立ってきたので
一番年長に見えた男の子に話し掛けてみた。
『なんでニヤケとるん?』
ニヤケ面の色黒の少年はビックリしていた。
多分僕が観光客で話せないんだと思ってたらしい。
『いや…、別に…』
彼はしどろもどろにそう答えた。
『ならなんで僕を見てる?』
『いや…意味はないよ…』
『今からどこ行くの?こんな集団で』
『あの…ちょっと…家に帰るところ』
『皆家族なの?』
『あ、うん…』
『君の名前は?』
『……』
『なんで囲むの?他にスペースあるじゃない』
『……英語分からない…』
『あ?』
『僕…英語…よく分からない』
…拭き出しそうになった。
いままで話してたのにいきなり分からんくなるんかい!
と思い、更に突っ込もうとしたら駅に着いた。
扉が開くや否や総勢10数名の軍団は逃げるように出て行った。
さて…、と背中に担いでたバッグを見てみると
やはり、カバーは全開で、モノが一つなくなってた。
その『モノ』とはこういう時の為に用意していた
捨てるつもりだったボロボロの空財布。
『ど~じ。これは偽物だよぉ~ん。二度とするな。馬鹿。』
と書いた紙だけをいれていたフェイク用財布。
わざと取り易い場所に入れてた。
彼らはまんまと引っ掛かったって訳。
周りの人から今更ながら
『やられたね』と心配そうに言われたけど
『やられたのは多分向こうの方だよ』と答えた。
してやったのは、すがすがしい気分だったけど
囲まれた時に、すぐ気付かなかったのには、
相変わらずの無用心に我ながら呆れた。
ああいう子達は、元々は自分達の意志じゃなくて
親から言われてスリ行為をさせられてる事が多い。
だからちょっと悲しかったりもした。